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唐突に始まる恋の予感 目次

ご都合主義万歳

プロローグ

第1話

第2話

第3話

第4話
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唐突に始まる恋の予感  プロローグ

茹だるような暑い夏の日。
7月に入り本格的に夏到来といった感じなんだろう。
気の早いセミ達がミンミンと鳴き始めて非常に耳触りである。
俺は先程購買で買ってきたパンを一人寂しく中庭で食っていた。
別に一緒に飯を食う友達がいない訳じゃない。
理由をしいて言うならなんとなくだ。なんとなく、今日は一人で食う気分だからだ。
俺は誰に言い訳してるんだ。軽く自重しながら空を見上げてみた。



時々ふと思う。俺は平凡な人生を送るんだろうな、と。
いや、むしろそれ以下の、いわゆる負け組みの人生を送る羽目になるんじゃないかと。

まともな大学に進めず名前を書けば受かる馬鹿大学に入学。
友達もそこそこに女っ気の無い乾いた大学生活。
そして就職活動に失敗。流されるままにフリーターへ。そのままずるずると負け組みの沼へ・・・

嫌な想像をしていまい不安になってしまった。もちろんそんな将来は嫌だ。
俺はそんな人生になるのか?思わず自分の今の現状を考えてしまう。
さほど偏差値の良くない普通の高校に在籍。
入学時に高校デビューと言わんばかりに未経験でサッカー部に入ってみたは良いものの
練習のきつさに耐え切れず二週間で辞めてしまった。
勉強もあまりしない。家ではあまりと言うよりむしろ全くやらない。
精々テスト前に一夜漬けするぐらいだ。もちろんそれで成績が良い訳がない。
そしてなにより悲惨なのは彼女いない歴=年齢という不名誉な称号が付いている事である。
まだ高校二年だからそこまで悲観することは無いかもしれんが
実際もう彼女を持ってる奴も大勢いる訳で男として焦らざるを得ないのである。

・・・だめだ。全く良い将来を想像出来ない。
俺はこのまま駄目人間一直線になってしまうのか・・・やばいぞそれは。
口ではそんな事を言いながらも全く何か行動をしようという気にならない辺りに
既に駄目人間臭が漂っているな、と自分で思ってしまった。情けない。


「何をしょぼくれた顔してるんだノザン?」


もそもそとパンを食っていたら急に横から話しかけられた。
不意にかけられた声だが聞き慣れている声だったので戸惑いは無かった。


「お前いきなり喧嘩売ってるのか?冷房の効いた喫茶店でならいくらでも買ってやるぞ木下?」

「ノザンの奢りなら幾らでも売ってやるよ。今からでもいくか?」


にやにやしながら言ってくる木下。
えらく得意気なその顔に俺は反発せずにはいられない。


「なんで木下に奢らないといけないんだよ。アホか」


いきなり失礼な事を言ってきたこいつは「木下由香里(きのしたゆかり)」
口調はちょっと汚いが一応女だ。
小学生からの付き合いで中学、高校も何故か一緒で合計十年近くも同じクラスである。
したがって俺が気楽に話せる唯一の女友達と言ってもいい。

ちなみに何故こいつが俺の事をノザンと呼ぶかというと
俺の名前が野崎直弘(のざきなおひろ)
なんで苗字からもじってノザンという極めてシンプルな理由である。
小学生からの連れにはそう呼ばれている。別にこいつと特別な関係だからという訳ではない。


「お前なあ。あたしみたいな良い女が奢りなら喫茶店に付き合ってやるって言ってるんだぞ?
 男なら喜んで奢りますって言うだろ普通?」


髪と腰に手を当てポーズを決めながら得意気に言う木下に俺は戸惑う。
自分で言うなと思う奴もいるかもしれんが俺には言い返す事が出来ない。
彼女は自分で言うようにショートカットの似合う美人だからである。
髪は染めた事が無いからか非常に艶々としている。
目も大きく、くりくりとしていて魅力的である。
実際、その瞳に見つめられて陥落したという男達の情報をいくつも聞いた事がある。
照れくさい為あまり見ようとしないが体の方も均整の取れた良いスタイルだ。

まあそんな美人さんである木下に喫茶店に奢りなら付き合ってやるって言われてる訳だ。
むしろこれは間接的に誘われているのか?
そう思うと少しずつ興奮してきてしまう。
正直に言うと俺は木下をかなり良い女だと思ってる。
そんな女に話の流れからとはいえ間接的に誘われれば嬉しいに決まってる。が、


「そ、そうかもしれないけどさ。俺金無いんだよ」


情けない事に現在の俺の所持金五百円成。
二人分の喫茶店代すら出せない非常に情けない状況である。


「ノザン、そんな金すらないの?」

「先週ゲーム買ったからもう小遣い無いんだよ」


ちなみに買ったのは糞ゲーだったので既にやっていない。
木下は呆れながら言ってくる。


「部活も入ってないんだからバイトぐらいしたらどうなんだ?
 あたしみたいにファミレスとかで働いてみるとかさ」


彼女は学校から十五分ぐらいの所にあるファミレスでバイトしている。
学校でも美人と評判の木下がバイトしているとあって
それ目当てのうちの生徒も結構行ってるらしい。
俺も制服姿を一度見たことがあるが確かにあれはアリだ。所謂萌えである。


「バイトなあ・・・確かにした方がいいんだろうけど・・・」

「煮え切らないね。なにか問題でもあるの?」

「いや、まあちょっとな」


めんどくさいという分かりやすい理由があるが口に出すには余りにも情けない理由なので
適当にお茶に濁すことにした。


「ったく、相変わらず情けない男だな。ま、そういう訳で由香里ちゃんとの喫茶店デートは
 また今度だな。残念だね~折角のチャンスを逃しちゃって」

「な、なあ。割り勘ならいけるんだけどそれで行かないか?」


僅かな望みにかけて俺は言ってみる事にした。
コーヒー1杯分ぐらいならなんとか出せるからだ。
だが彼女はその言葉を聞くと大きな目をきつく尖らせてしまった。


「ば~っか!男から割り勘持ちかけるなんて格好悪すぎ!
 そんな男に時間を割くほどあたしは安くないよ!」


それだけ言うと木下は肩をいからせながら去っていってしまった。

ヒュ~っと生温い風が俺を包み込んだ。

やはりあの場面で割り勘を持ち掛けるのは不味かったか・・・
いや、木下もあんな怒り方するなんておかしいぞ。
デートに誘っておいてちょっと条件が悪くなっただけであそこまで怒るなんて酷い。
そうだよ。木下もちょっとぐらい妥協してくれりゃいいのに。
俺としてもあのまますんなりとデートを諦めたくは無かったんだからさ。
一縷の望みを託して割り勘を持ちかけたくなる気持ちは男なら誰だって分かってくれる筈・・・・



「・・・俺かっこわりぃ」



己を擁護する事ばかり考えてしまっている自分に気づいてしまい
俺はより一層自己嫌悪してしまった。





情けない、駄目という言葉がよく似合う俺。

いつか変われる日がくるんだろうか。いつか変わろうと行動する日がくるんだろうか。

そんな事を考えながら悶々としていた日常。

だけど、俺の日常はある日を境に急に華やかになっていくのだった。






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theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

唐突に始まる恋の予感 第1話


「・・・なるほど。この敵にはファイヤーボルトが有効か。
 それじゃあ早速FBをこいつにぶつけてくれ」


ぺちぺちとキーボードとマウスを動かしながらモニターに向かって喋っている俺。
パソコンの画面には8頭身のいかにもファンタジーな衣装を身に纏った
3Dのキャラ達が動き回りながら目の前にいるモンスターに立ち向かっていた。
そして俺の操作するキャラの隣にいる魔法使い風の格好をした少女が呪文を唱えた。


「お~しおし!効いてるぞ。ここで俺がパワースラッシュをすかさず!」


少女の呪文が効いたのか目の前のモンスターが一瞬怯んだ。
その隙に俺のキャラが大きくジャンプしモンスターに襲い掛かった。


「だあぁ、なんでそこでブレス吐いてくるんだよ!お前今まで使わなかったじゃねえか!」


ブレスの直撃をカウンター気味に貰ったマイキャラが顔を手で覆いながらのたうち回っている。



―――――HPが一定以下になったら使ってくるのよ



「丁度お前の魔法で一定以下になったってか?あ~ついてねえ」



―――――愚痴らないの。ほら、もう一回PS出して。それであいつを倒せるから



「あいよ、・・・よし倒せた」




俺がやっているのは今、全国で人気になっているオンラインRPGの「ヴァルキュリア」である。
天界の戦女神であるヴァルキュリアに仕える英雄となる為にクエストをこなしたり
敵と戦ったり、あるいはのんびり釣りをしたりするというまあよくあるMMOではある。
しかし美麗なグラフィックと高いゲーム性で話題となり人気は既に全国規模になっている。
俺は話題になってからこのゲームを始めた新人でまだプレイして一月程しかたっていない。



―――――出たわね。それをあのお爺さんの所に持っていけばクエストクリアよ



「おう。いや~何から何まで教えて貰って悪いね麗華」



―――――ふふ、今更気にしないでよ。私も楽しんでるんだから



「それでもだよ。麗華のおかげで俺のキャラもこんなに強くなったんだからさ」



俺はさっきから独り言を言ってる訳じゃないぞ。
オンラインゲームならではのボイスチャットをやっているんだ。
この「ヴァルキュリア」ではボイスチャットのシステムが標準装備されている為
マイクさえあれば誰でも簡単にゲーム内でボイスチャットが出来る。
戦闘中はかなり激しくなるのでとてもじゃないが
キーボードで文字を打っている暇が無いので用意されたらしい。
これもこのゲームが人気になった理由の一つだ。


「麗華のレベルは今45か」



――――ノザンは46ね。50になったら天界にいけるようになるわよ



「おお、そりゃすげえ。よっしゃこのまま一気に50まで上げようぜ」



さっきから話している相手は「麗華」もちろんキャラの名前なんで相手の本名ではないだろう。
俺のキャラ名はそのまんま自分のあだ名を使っている。
こいつ、麗華は俺がゲームを始めたばっかりで何をしたらいいのか分からず
困っていた時に助けてくれた言わば俺の先生である。
助けてもらいながらいろいろとチャットをしている内に意気投合し
彼女は元々使っていた超高レベルのマイキャラを削除して新しくキャラを作り直してくれたのだ。
レベル差が離れすぎてて俺とパーティが組めないからだけど
そこまでしてくれて俺も嬉しくない訳がない。
俺達はそれからずっと二人でパーティを組んでこのゲームをやっているんだ。
超高レベルのキャラを育てたぐらいこのゲームをやり込んでいた彼女は
このゲームで知らない事は無いんじゃないかと思うぐらい知識が豊富で
俺はそんな彼女に手取り足取り教えてもらいながらこのゲームを楽しんでいた。



―――――意気込むのはいいけど時間の方は大丈夫なの?



「時間?・・・はうっ!もう二時じゃないかよ」


現在夜の二時。九時ぐらいから五時間ぐらいぶっ通しでやってたのか。
そろそろ寝ないと明日に響くな。
前に一度徹夜でやった事があるが最後の方は死にそうなぐらい辛かったので
もう徹夜はやらないと決めていたのだ。
いくらハマっているとはいえしんどい思いしてまではやらないよ。
一緒に付き合ってくれた麗華からも二度と御免だと言われてしまったしな。



「しょうがない、今日はここまでだな」



――――――そうね。それじゃあ明日もまた



「おう、九時に何時もの所でな」



――――――待ってるわよ。じゃあね、ノザン



その言葉を最後に彼女のキャラが画面から消えていった。ゲームからログアウトしたのである。
俺も続いてゲームを終了させた。


(さて、明日も早いしさっさと寝るか)


電気を消し、ベットの中に入る。暑いので布団等は被らない。
しかしレベル50になったら天界にいけるのか。楽しみだな。
天界に行けば俺の職業の強力な装備が手に入るらしい。
らしいと言うのはもちろんそれが麗華からの情報で実際に見た訳ではないからだ。


(・・・そういや麗華って学生なのかな)


不意にではあるがそんな事を思ってしまった。
ゲーム内での非常に気の合う相棒だ。気にならない訳がない。
それでも今まで考えなかったのは
ゲームの世界と現実を混同させる事に一種のタブーみたいな物を感じていたからだ。


(・・・ネカマだったらマジで嫌だな)


タブーにしていた理由の一つがこれだ。
このゲームのボイスチャットにはプライバシー保護の為の変声機能がついている。
それを使って口調を変えれば簡単に男でも女になりきれるのである。
そういった奴がネット上でのオカマ。略してネカマだ。
ゲーム内でのネカマによるトラブルは少なくない。
まあそのトラブルの大半は男が貢いで騙されるっていうのなんとも情けないトラブルだが。
俺の場合貢ぐなんて事は全くしてないし
むしろいろいろ助けて貰ったりアイテムも貰ったりしてるからその辺りの心配は無い。
だからといって相手がネカマじゃないとは限らないから心配なのだが。
ちなみに俺は変声機能など使った事はない。
使い方が分からない内に麗華に会ったので生声を聞かれてるしね。
こっちの声を知ってる相手に使ってもしょうがない。


(だけど・・・麗華の声は綺麗だ)


ヘッドフォンから聞こえる彼女の声は決して合成音声には真似出来ない筈だと
思いながら俺はそのまま眠りについたのだった。














相変わらずセミが五月蝿い。
日差しも一向にきついままだ
暑い、暑すぎる。早く夏休みになってくれ
俺は学校に向かいながら一人心の中で愚痴っていた。
大体夏休みって言うぐらいなんだから夏の間は全部休みにしろよ。
こんな暑い日に一人で登校していると脳が茹ってきそうだ。


「ナオじゃねえか。相変わらず景気の悪い顔してるな」


急に後ろから話しかけられた。しかも非常に失礼な事を言ってやがる。


「トシ、朝っぱらから五月蝿いぞ」

「実際そういう顔してるから仕方ないじゃねえか」


後ろが話しかけてきたこいつは山田俊彦。中学からの連れだ。
中学からずっとサッカーをやっており俺がすぐに辞めたサッカー部で一年からレギュラーを張っている。
顔も悪く無いので女にも結構モテる。
くそ、俺と全然違うじゃねえか。



「これだけ暑くてお前みたいに元気な顔してる方がおかしいんだよ」

「そりゃナオとは体力が違うからな。サッカー部舐めんなよ」


帰宅部とサッカー部じゃ体力に差があるのは当然だが言われっぱなしも悔しい。


「そうか・・・トシ、サッカー好きか?」

「いちいちそのネタ言うんじゃねーよ!」


名前が名前なんで某サッカー漫画ネタで弄られると怒り出す。
俺がくっくっくと笑っていると
怒ってる様子をしていたトシの表情が急にニヤニヤとした物に変化した。


「そういえばよ~」

「な、なんだよ急に、気持ち悪いな」

「お前昨日の昼休みに木下に振られたんだって?」

「な!!」


何故それを、と言おうとした所で思い留まった。
そもそも何故こいつが知っているんだ?
こいつはいつも昼休みは五分で飯を済ませ校庭でサッカーをやっている筈。
それなのに何故だ!?
俺の表情から疑問に思っているのが分かったのだろう。トシがそのまま言い続ける。


「結構見られてたらしいぜ。お前が木下に無残に振られた所」

「嘘っ!?」

「本当だって。俺も直接現場を見たって言う後輩から聞いたんだぜ」

「マジかよ・・・・」


相変わらずニヤニヤしているトシ。
しかしそんなに目撃者がいるとは・・・・恥ずかしい。


「別に告白して振られたわけじゃねえよ。ちょっとしたいざこざがあっただけだよ」


本当の事を言うわけが無い。こいつに言ったらそのままネズミ算式に噂が広がるからな。


「ふ~ん。でも周りの奴はそう思わなかったらしいぜ。
 あの木下もやっとお前を見限ったのかってのがもっぱらの噂」


「勘弁してくれよ。俺はあいつとそんな関係じゃねえのに・・・」


さばさばとした性格の木下だが実は学校に男友達がほとんどいない。
あいつが喋る男は小学生からの付き合いのある俺ともう一人だけである。
中学以降、男達が自分を露骨に下心のある目で見てくるのに気づいたらしく
自分からあまり男に近寄ろうとしなくなったのだ。
例外は俺と付き合いのあるこいつ、トシぐらいかな?
だからといってじゃあ俺は下心が無いのかと言えばそんなことは全く無く
むしろ下心満載なのだがそれは何故か気にならないとの事。
小学校からの付き合いの賜物である。
だが、そんな事情を知らない他の男達は
どうみても並以下の男である俺と木下が仲良くしているのが気に食わないらしい。


「お前木下の事結構好きなんだろ。いっその事告白してみたらどうなんだ?
 もしかしたらOK貰えるかもしれないぜ」

「断られたらどうするんだよ」


俺が一番恐れているのは木下と気まずくなって疎遠になってしまうことである。
割り勘でデートしようとして怒られた事自体はそれ程問題でもない。
情けない話だが俺はしょっちゅうあいつを怒らしている。
そしてあいつはその度に許してくれる。だから問題じゃないんだ。
でも告白なんかして振られてみろ。
これからも友達でいてね、なんていいながらも気まずくて疎遠になっていくのが目に見える。
彼女は欲しいし木下が彼女になってくれたりしたら文句無しだ。
でも断られて数少ない女友達がいなくなるのも嫌だ。


「振られた時の事考えて告白なんかできるかよ。相変わらずだなお前」

「いいじゃんかよ、別に。それよりお前の方はどうなんだよ。前に言ってた4組の子だったか?」


それを聞くとトシが満面の笑みを浮かべた。


「聞きたいかね?」

「いらねえよ。くそっ、聞くんじゃなかった」
 

俺がそう悪態をついた所で会話が止まった。
その瞬間、急に女の子達だと思われる黄色い声が聞こえてきた。
俺は声のする反対側の歩道を見た。


「お~華恋女子の子達じゃねえか」

「ああ・・・・」

「くうぅ~やっぱりいかにもお嬢様って感じだよな。雰囲気からして全く違うぜ」


私立華恋火(かれんか)女子学園
俺達の学校から徒歩十分ぐらいの場所にある。
いわゆるお金持ちのお嬢様達の通う名門私立学園だ。
金さえ出せば入れる学園では無いらしく家柄も重視しておりそれに加え
本人の学力が伴って初めて入学できるらしい。
そんな完璧なお嬢様達の通う学園だけに
周りの高校の男子学生どもは当然の如くその学園の女子達に憧れている。
実際、華恋女子の女の子達は何故か美人揃いである。
容姿も審査の対象なのかもしれん。
彼女達はお嬢様と呼ばれるだけあって非常にガードが固いらしく
これまでナンパに挑戦した数々の男達も漏れなく撃沈しているそうだ。


「ああいう女の子達と付き合えたらいいのになぁ」


ぽつり、と俺は言う。


「そうだよな~。でもなあ俺達じゃなあ。住む世界が違うっていうかなんていうか」

「それを言うなよ。夢ぐらい見させてくれよ」

「ま、俺は彼女いるから別にいいけど」

「自慢するな、死ね」



彼女のいる奴はみんな敵だ。
皆等しく死んでしまえ。



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genre : 小説・文学

唐突に始まる恋の予感 第2話

野暮ったいスクール水着も女子高生がつけると有りだな。
その野暮ったさが良いと言う奴もいるかもしれんがそのような
特殊な性癖を持っていない俺にはスクール水着自体に特別な魅力を感じなかった。
だが実際にスクール水着を身に纏っている女子高生を見ると
そんな男達の気持ちも分からなくは無いのだ。
俺はプールサイドではしゃぎ回っている天使達を見ながら一人頷いていた。


「・・・・暑い」


ゴールキーパーをしながら。
女子達がプールで楽しそうに授業をしているのに対して、何故か男達は
肌をこんがりローストされているかのような炎天下の中サッカーをやらされていた。
俺は一番楽そうなキーパーを選びのんびりと女子の観察をしていたのだ。
う~む流石に高2にもなるとみんな発育状態がいいな。目の保養になる。
ふと、視線をこちらに向けてきた木下と目が合ってしまう。
彼女は目を吊り上げてプールの方を見ていた俺に怒ったような目を向けるが
すぐにぷいっとそっぽを向いてしまった。
まだ先日の事を怒っているようだ。
まあこれまでの経験上、木下の怒りはそれほど持続しないだろうから
しばらくはそっとして置くとしよう。
木下の揺れる尻を見ながら俺はそう思った。
完全に女子の方に意識を向けていた俺をサッカーの神様は許してくれなかった。


「ぐはっ!」


相手のシュートを顔面に食らってしまった。
サッカー部の人間なのかしっかりとミートされた威力のあるシュートだった。
しかもボールはそのままゴールに入ってしまう。


「何やってんだ馬鹿!」

「うるせえトシ、お前がシュート撃たせるのが悪いんだろうが」

「フォワードの俺にそんなこと要求するな!女子の方見てたお前が悪いんだろうが」


それには言い返す事が出来ない。
だがトシよ、FWが守備をしなくていいなんて昔の話だぞ。
ってあれ、何か鉄っぽい匂いが・・・


「あ~鼻血が出てきた。ちょっと保険室いってくるわ」

「女見てて興奮したのかよ!」


その言葉に周りの奴らもドッと笑い出す。
くそ、恥ずかしいからとっとと保健室に行くぞ。
俺は足早に保健室へと向かう事にした。









「先生~鼻血出たから止めてくれ」


やや乱暴に保健室の扉を開けての第一声だ。


「野崎・・・いちいち鼻血ぐらいで保健室にくるんじゃない」


俺の声に反応して振り返る先生は言葉遣いこそあれだが美人で通っている若い女性の保険医である。
艶々している長い黒髪と縁の無い丸めがねが特徴の知的な美人だ。


「別にいいじゃん。鼻血だって立派な出血で治療が必要なんだぜ」

「ったく・・・ほら、そこにあるガーゼでも適当に鼻に詰めてろ」


鬱陶しいと言わんばかりにシッシと手を振りながら置いてあるガーゼに目を向ける。


「先生も照れ屋なんだから。俺が来て嬉しい癖に」

「しょっちゅう来てるお前をいちいち相手にするのは面倒くさいんだよ」


これだけの美人の保険医となれば生徒からも当然人気になる。
俺も些細な怪我でもすぐに保険室へと行っておりすっかり常連となっていた。
健全な男子高校生なら極正常な反応だと思う。


「普通、生徒に自分で治療させる保険医なんていないぜ」


言われた通りガーゼを適当に手に取り鼻に詰めながら言う。


「ここにいるだろうが。野崎相手ならそれぐらいで十分だよ」

「全く俺も報われないぜ。こんなにも先生を愛してるってのに」


毒舌だが本気で邪険にする事は無い先生なので俺も軽口を叩ける。


「ば~か。ほれ治療が終わったんならさっさと出ていきな」

「え~折角あの糞暑い地獄から抜け出せたのに~このまま終わるまでいさせてよ」


保健室の冷風を味わった今、俺の中に授業に戻ると言う選択肢は無かった。


「授業だがらしょうがないだろ。諦めてさっさと出て行け」

「あ、そうだ。先生、今度の休みデートしない?ほら前に言ってた映画、あれ見に行こうよ二人で」


冷めた表情で俺をあしらっていた先生が眼鏡を直しながら急に柔らかい表情になった。


「そうだな、代金がお前持ちだと言うなら考えてやらん事も無いが」

「うぇっ!学生の俺にたかるんすか?」

「男なら当然だろ?もちろん映画だけじゃなくてその後の食事代もだ。
 そうだな・・・ガーネットホテルの最上階にあるフレンチがいいな」

「うぅ・・・・勘弁してください」


ガーネットホテルは有名な高級ホテルでそこの最上階のレストランなんて
一体幾ら諭吉さんが飛んでいくか貧乏学生である俺には想像も付かなかった。


「ふっ、まあ私を誘いたいならそれなりに稼げるようになってから出直しておいで」


そう言って先生はうっすらと微笑んだ。
俺はあまり見る事の出来ない先生の笑顔に見惚れてしまった。
見惚れていた俺に気づいた先生が俺の頭を軽くこついた。


「なにボーっとしてんだよ馬鹿」

「あ、先生顔が赤いぜ。さては俺に惚れたな」

「うっさい!余計な事を言うな」


ちょっとむきになっている先生は何時もの冷静な感じが無くて妙に可愛らしく見えた。








放課後に入って鼻血はとっくに止まっている。しかし問題が発生。さてどうするか。


「なに口押さえてんのノザン?」

「いや、なんでもないぞ正樹」


ガーゼが血でくっついて鼻の中がガーゼの繊維まみれになってしまったのだ。
一部の繊維は鼻の外にまで到達しており白い鼻毛のようになっているだろう。
あまりにも格好悪いこれを見られるわけには行かない。
その為俺は口というより鼻を手で覆っている。


「なんでもないようには見えないよ、それ。体調が悪いなら保健室行ったほうがいいよ」

「さっき行ってきたから問題ない」


嘘です。俺の鼻は問題発生中です。しかし知られるわけにはいかん。


「それより正樹は部活の方はいいのか?授業も終わってさっさといかないといかんだろうが」


野球部の3年といえば後輩苛めが基本だ。相撲業界風に言えばかわいがり。ちと違うか?
それでなくてもこの里中正樹という男は野球部らしからぬ可愛らしい顔立ちと小柄な体系で
上級生のお姉さま方から抜群の人気を誇っている為なにかと先輩から
嫉妬を込めた可愛がりを受けているのだ。
部活に遅刻したら3年はここぞとばかりに正樹に攻撃してくるだろう。

「もちろん行かなきゃいけないよ」

「だったら早く・・・」

「でも体調悪そうなノザンを置いて部活にいけるわけないじゃん」


・・・なんというさわやかな笑顔。
そして聞き方によっては誤解されそうな発言。
腐女子がみたら狂喜のあまり発狂しそうな男だなこいつ。
こういう事を本気で言えるような奴なんだよな正樹は。
まあだから野球部の3年も本気でこいつに敵意を持ったりしないわけだが。

純粋に俺を心配して言ってきてるのが分かる為、男に言われてちと気持ち悪いのと
心配されてテレくさいのが混ざり合った複雑な気持ちになってしまう。
だが今はその優しさが嬉しくねえ。


「大丈夫だって。俺ももう帰るし、お前もさっさと部活いけよな」

「本当に大丈夫?なんだったら送っていくけど」


心配そうな顔をして見るな。そして俺の手を握りながら言うな。
天然だから怒るに怒れず余計にタチが悪いな。
帰り支度をしていたクラスの女子の目も釘付けになってるじゃないか。


「だから心配すんなって。んじゃ俺帰るからまた明日な」

「あ、ノザン・・・気をつけてね」


俺は顔を、というか鼻を押さえたままさっさと教室を後にした。
しかし正樹はあんななよっとした外見でよく野球部のエースになれたな。
見た目で判断できない典型だな。
と、今は正樹の事を気にしている余裕は無い。
一刻も早くこのホワイト鼻毛を処理しなければいけないのだ。
とにかくトイレにダッシュだ。あそこなら誰にも見られん。
俺は駆け足で廊下を進んでいく。
が、計算どおりに行かないのが世の常か。
急に俺の進路を塞ぐように木下が現れた。


「ノザン、あんた今日暇?」


木下がやや不機嫌そうな顔をしてぶっきっらぼうに言ってきた。
俺が言い返す前に木下がそのまま言い続ける。


「その、今日バイト休みで暇だからちょっと遊びに行くのに付き合ってよ」


こっち顔を見ずに一気にまくし立てる。
どうやら木下の機嫌が直ったようだ。
俺が木下を怒らせてしばらくすると木下が不機嫌そうに遊びに誘ってくる。
小学校から続いている俺達の習慣だ。
俺も木下と遊べるのは嬉しいのだが・・・


「いや、それはいいんだけどちょっと後にしてくれないか」


今の俺にはトイレにいかなくてはいけないという使命があるのだ。
だが木下は納得しなかった。


「なんだよそれ、あたしと遊ぶ事より優先する事があるっていうのか?」


今まで誘われたら無条件で即OKしていた俺がそんなこといったのが気に食わないのだろう。
木下が俺に詰め寄ってくる。あ、いい匂い・・・
なんで女子ってこんなにいい匂いするんだろ・・・って今近づかれるのは不味い!
俺は顔を横に向けながら冷静さを保つよう意識して言う。


「違う、違う。ただ俺は今すぐに・・・」

「ノザン・・・さっきから口押さえてどうしたの。気分でも悪いのか?」


そこに食いつかないでくれ!頼むから!
こいつに見られるのは勘弁だ。というか女子に見られたら終わる。
木下は表情を一変さして心配そうな顔で俺を見つめている。
こんな状況でなければ俺の胸はキュンキュンきていただろう。


「今から保健室にいくよ。さあ早く」

「ちょっとまてって、ああっ!」


鼻を押さえてる方の手を握って急に歩きだすもんだから鼻のガードが外れてしまった。
更に俺が大声で叫ぶもんだから木下が振り返ってしまった。


「どうしたのノザン?・・あ・・・」


慌てて隠すがすでに手遅れだったようだ。
木下が俯いて肩を震わせている。
そして顔を上げるとそこには大爆笑の顔が。


「あははは!ちょ、なにその白い鼻毛。あはは、ダサすぎ!」


なおも笑い続ける木下。余程壷にはまったのだろうか。
俺の人生終わった・・・・


「ちくしょおおお!!」

「あはは、ち、ちょっと待ってよノザン!・・ぷっ」


気がつけば走り出していた。
とにかくこの場から一刻も早く立ち去りたかった。















「おはよう麗華タン」


俺はネトゲに逃避していた。


――――どうしたのノザン?なんだか元気がないようだけど


ああ・・・やはり麗華は最高だ。
彼女は優しい。俺が今みたいに元気が無い時はいつも励ましてくれる。
いまや俺の心のオアシスと言ってもいいだろう。


「いや・・・ちょっと今日学校で女の子に笑われちゃってさ」


流石にどういう理由で笑われたかまでは言わない。
麗華にも笑われたら俺にはもう逃げる場所が無いのだ。


――――・・・・・そう


あ、あれ、どうしたの俺のオアシス?何か機嫌が悪いようだけど。


――――その女の子ってノザンの彼女なの?


麗華が不機嫌そうに言ってきた。こんなことは初めてだ。


「別に彼女ってわけじゃないけどさ」


――――・・・好きなの?


「ぶっ」


本当に今日の麗華はちょっとおかしいぞ。
今までこういう話したことないのに急にどうしたんだ?


「い、いや別に好きでもなんでもないよ」


ちょっと嘘。実は結構好きです。告白されたら多分付き合います。


――――・・・そっか、そうだよね。ノザンに彼女なんているわけないよね


グサっときたぜそのセリフ。


「ひでえよ麗華・・・俺はこんなに傷ついているのに・・・」


――――あ、ご、ごめんなさいノザン。私ったら無神経に


「いいよ・・・もういいよ・・・」


俺の心は既にボロボロだった。
麗華にまでひどい事言われては最早俺が逃避する場所は残されていない。
自殺まで考えた俺に麗華がためらいながら言ってきた。


――――じゃ、じゃあさ。私が、彼女になってあげようか?


「え?」


俺、再起動。


――――私なら、ノザンを幸せに出来ると思うの。
    ・・・・今までずっと仲良くやってきたし、私、ノザンの事が好きなの。


「え、ええええ!!」


俺、覚醒。


――――あなたが、ずっと私の探していた王子様。
    ちょっと頼りなくて、格好悪いけどね


その時、声だけの存在の筈の彼女がウインクしているように見えた。



「え、え~っとその・・・こ、こちらこそよろしくお願いします!!」


完全に取り乱していた俺は夜9時だというのに大声で叫んでいた。


――――・・・・嬉しい。私たち、これで恋人なのね。


「そうだよ!ネットの世界だけだけど!」


明らかにテンションのおかしい俺。


――――ふふ、心配しないでノザン。ネットだけの関係で終わらせたりしないわよ


「え、それって・・・」


――――ごめんなさい、急いで準備しないといけないから今日は落ちるわね。


「麗華?」


――――また明日ね。・・・・大好きよノザン


最後にチュッっという甘い音と共に彼女はゲームから落ちていった。
俺はしばらくの間呆然とすることしか出来なかった。













いつものように朝がやってくる。
俺もいつものように登校中。
結局俺はほとんど眠れなかった。
だってそうだろ!
ついに俺にも彼女が出来たんだぞ!これでいつも通り眠れる方がおかしいだろ!

・・・・まあネットゲームでの話なんだけどね。
しかも相手はネカマかもしれんし。
いかんいかん、余計な事を考えるな。気が滅入る。
とりあえず教室に行こう。


「よう、ナオ」

「おう、トシ」


席に座ると同時にトシが話かけてきた。
顔がニヤニヤしている。こういう顔したトシがろくな話を持ってきた事が無い。


「聞かせてもらったぜ。ホワイト鼻毛事件」

「お前・・・なんで知ってるんだよ」


元気の無い俺はいつものようにテンション高く返す事が出来なかった。


「つ~か廊下であんな事やっててバレないわけないだろ」

「・・・・それもそうか」

「なんだよ、いつもみたいに乗ってこないな」

「まあな。今の俺はそれ所じゃないんだよ」


今の俺には麗華の事で手一杯なのだ。
もちろんこいつには話したりしない。
ネットで彼女が出来たと言っても笑われるのがオチだ。


「なんだよそれ」

「とりあえず俺の事はそっとしておいてくれ」


ここで会話を切ろうとした時廊下が急にざわつき始めた。
疑問に思った俺にトシが言う。


「転校生がくるんだってよ」

「なんだトシ。お前は興味ないのか」

「ありまくり。なんてったってあの華恋火から転校してくるらしいぜ」

「マジで?」


あのお嬢様高からなんでこんな平凡な普通高に?


「華恋火からくるってことはもう美人確定なわけじゃん。
 そりゃあ男達は騒ぐに決まってるだろ」

「そりゃそうだ。だがその筆頭のお前が何故こんなに静かなんだ」

「俺も外の奴らみたいに騒ぐと、俺の「彼女」が嫉妬しちゃうんでさ!」

「いちいち強調すんな」


気にはなるが俺はそれどころでは無い。
つ~かもう眠くてたまらん。寝不足が今になって効いてきた。


「じゃあ、俺は寝るんで」

「んだよ、またエロゲーでもやってたのかよ」

「エロゲーじゃなくてネトゲ・・まあいいやお休み」








声が聞こえる。


「お前ら騒ぐな。その様子ならもう知っているようだが・・・・」




大歓声が鳴り響いてきた。うるさい。ゆっくり眠らせろ。。


しばらくして声が静まる。

チョークを使用する音だけが教室に響いていた。




――――皆さん始めまして




無意識の内に俺は飛び起きていた。



「私立華恋火女子学園から来ました南条レイカです」



声が・・・・一致した



「皆さんよろしくお願いします」



目が合った。
ストレートの金髪に青い瞳。制服の上からでも判る見事なスタイル。
そして並の日本人とはかけ離れた美貌を持つ彼女が満面の笑みを浮かべ人差し指を立てた。



「ふふ、ネットだけの関係で終わらせたりしないわよ、ノザン」


そう言ってウインクした「レイカ」は昨日見えた「麗華」そのままだった。






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genre : 小説・文学

唐突に始まる恋の予感 第3話

人間、想像の限界をはるかに超える自体に直面すると
パニックになることすら出来ず、ただ呆然とする事しかできないんだな。
今、その想像の限界を超える自体ってのに初めて直面してよくわかったよ。



「れ・・・れい・・・か?」


口をパクパクしながら、かろうじて口にする事が出来たのはこれだけだった。


「そうよ。貴方の恋人のレイカよ、ノザン」


そういって笑う彼女の声は俺がいつも聞いていた麗華そのままだ。
俺は呆然としながらもそれだけは確信できた。
気がつけば麗華は椅子から立ち上がっていた俺の目の前に来ていた。


「ずっと・・・・本当の貴方に会いたかったの。
 貴方は私の想像通り、ちょっと頼りなさそうで、でも、私が好きになった貴方のまま。
 私はどうかしら・・・・貴方の想像した姿に答える事が出来たかしら」


その場でくるっと一回転する。
動きの一つ一つが一朝一夕では到底出来ない、洗練された優雅な印象を与えている。
ストレートの艶やかな金髪が奇麗に流れて俺の鼻先を掠めると
なんとも表現しづらい、すごく女性らしいような匂いがした。
それだけで俺はもう参ってしまった。
自分が自分で無いような、素晴らしい夢のような現実味の無い気分に陥っていた。


「い、いや!想像以上っていうかその、俺が今まで見てきた中で一番、その、えっと・・・」


自分で何を言っているのかよくわからない。
勢いのままに適当に発言している。


「その様子だと期待外れでは無かったみたいね。・・・嬉しいわ」

「で、でも。なんで麗華がここに!?」

「それは後で、ね。まずは・・・あ、貴方の恋人になれた証を私に頂戴・・・」


麗華がその場で・・・ええ!!ひひ、瞳を閉じて唇を向けてきた!
手を胸の前で合わせて顔も紅潮して・・・こ、これは!!





(現在、俺の中でビッグバンが発生中、しばらく待ってくれ)





・・・・はっ!!
こ、これは漫画とかでよく見るあれなのか!?

キキキ、キスのおねだり!!!

そんな、俺達まだ会ったばかりだし、あ、でもネット上での付き合いは一月ぐらいだし
夜中の間ずっと一緒にいたしそれならそんなにおかしくは・・・
いや、でも実際こうして会うのは初めてなわけで初対面でキスってのはおかしくて、でも
俺達は恋人なんだからキスしてもごく自然で・・・でも、でも



「「「「「ちょっと待てやこらぁ!!!!」」」」」


「・・・・え?」


俺の思考は突然叫んだ大勢のクラスメイト達によってストップさせられた。
うるさいな。なんなんだよ一体。お前らに構ってる余裕なんて無いんだよ俺には。
周りを見渡してみると何故かクラスの男子諸君ほぼ全員が殺気だった目で俺を睨み付けている。
例外といえば正樹ぐらいか。その正樹にしてもなにやら不満そうな顔をしているし訳がわからん。
とりあえず一番近くで俺に殺意の視線を向けているトシに話しかけてみよう。


「なんだよトシ、俺は今お前達の相手をしている暇など無いぞ」

「き、貴様!!レ、レイカ様に何をしようとしてるんだこら!!」


レイカ様て。
転校生をいきなり様付けってどうなんだよ。
とはいえレイカを見てると思わず言いたくなる気持ちもわからなくはない。
なんというか全身からお嬢様オーラみたいな物が溢れ出てる。
思わず跪いて靴を舐めたくなるかもってそれじゃ女王様か。
しかし何をしようとしてるって俺はまだ何も・・・ん?
何故レイカの顔がさっきまでよりはるかに近くなっているんだ?
というよりなんで俺は彼女を抱き寄せているんだ!?


「ノザン・・・焦らさないで、お願い」

「ぬおお!!」



我に帰り慌ててレイカから離れる。
お、俺は一体何をやろうとしてたんだ・・・
・・・多分無意識内にレイカにキスをしようとしていたんだろうか。
というかあの体勢からはそれ以外の答えは出ない。
自分という人間が信じられなくなったぜ。


「離れちゃやだ。こっちにきて、ノザン」


俺が離れた事で切なそうな表情をしていたレイカが俺を自分の傍に引き寄せる。
不意をつかれた俺は抵抗する事もできずに彼女の胸元へ無事着陸した。
これまでに経験した事の無い、そのまま昇天してしまいそうな程の夢心地の感触だ。
だがすでに現状を把握している俺は必死にレイカから離れようとする。


「むぅ~~!!んぅ~~!!!んんん!」


「あん、そんな暴れないでよ」


が、レイカは俺の頭をしっかり抱きかかえているせいで脱出する事が出来ない。
むしろあれだ。
抵抗しようとすると顔をレイカの胸元で動かしまくらないといけないんで非常にアレだな。


「!!!!!!」


おーおー、見なくてもトシの血管がブチブチ切れてるのがわかるわ。
周りの野郎達もどんどんヒートアップしてるなこれは。
でも、なんかどうでもよくなってきたな。こりゃたまらん。
あっけなく誘惑に陥落した俺はすっかり反抗の意思をなくしていた。


「レイカ様の抱擁を受け続けるなど最早許せん!」


「裏切り者に死を!」


「キルキルキルキル・・・・」



教室が混沌となり、収拾がつなくなりそうになったその時
机を力の限り叩きつける音が響いた。
あまりの轟音に周りの男は静まり、俺もまたびっくりしてレイカから離れてしまった。
皆一様に音の発生源に目を向けた。


「うるさいぞ」


直ぐにわかった。木下だ。
俯いているせいで表情は見る事は出来なかったが
声を聞くだけでそれが怒りに満ちているのが容易に想像できた。
彼女の怒りを察したであろう他の男子は一斉に口を閉ざした。
木下がゆっくりと顔を上げた。うわ、予想通り。


「ノザン・・・誰だよそいつ」


怖っ!いつもと違って静かな分、余計に怖いよこの人。
しかし、そいつって・・・レイカの事だよな?
なんというべきか・・・正直にネトゲで知り合ったというのは何故か気が引ける。
だが今のこいつには嘘や冗談を言う気にはなれない。怖いから。


「私はノザンの恋人の南条レイカと申します」

「ちょっレイカ!?」


レイカが勝手に喋り出す。木下の怒り等何処吹く風なのか全く気にする様子が無い。


「嘘だ。ノザンに彼女なんかいない」


木下が言い返す。ってか更に顔が・・・


「昨日から付き合う事になったの・・・」

「嘘をつくな!!」


レイカが頬に手を当てながら恥ずかしそうに言った所でとうとう木下がキレた。
机を叩きつけ椅子を弾き飛ばす勢いで立ち上がった木下。
俺やクラスの皆はびびりながら遠巻きに見てるだけしかできないのに
レイカだけは一人、動じることなく木下を見据えている。


「こいつは生まれてから今までへたれ一筋の情けない奴なんだ!
 小学校ではあたしに毎日の様にちょっかいかけてくる癖にあたしが反撃したらすぐに泣くし、
 中学じゃあ勉強も部活もろくに出来なくてあたしに「彼女欲しいなぁ~でも告白して
 振られたらやだしなぁ~」ってぶつぶつ言ってくるだけで3年間過ごして
 高校に入ってもサッカー部のしごきに耐えられずにすぐに逃げ出して
 そのままダラダラ生きてる様な何処に出しても恥ずかしい駄目人間なんだ!
 そんなノザンに彼女なんて出来るわけないだろ!!」


俺のことかよ!?
ってか今までそんな目で俺の事見てたんかい。
いや、まあ、その間違ってはいないんだがそんなはっきり言うなよ。
俺が傷つくじゃないか。配慮してくれよ。


「・・・・随分ノザンの事を知ってるのね」

「あ~木下は小学校からずっと同じクラスだったから」

「そう・・・・」


レイカは表情を変えずにぽつりと言う。
さっき見た笑顔とは程遠い、冷たさすら感じる無表情である。


「それで、何故貴女はそんなに怒っているのかしら?」

「な!何故って・・・それは」


その一言で木下の勢いが止み木下が口ごもる。
そういえばなんで怒ってるんだこいつは?
・・・・俺に彼女が出来たって事に怒ってる?



し、嫉妬か!?嫉妬なのか!?
レイカに嫉妬したと言うのか、という事は!


「ふっ。モテる男はつらいぜ」


髪をかきあげながら言ってみた。一度言ってみたかったんだこの台詞。
だがタイミングがあまりにも悪かったらしい。
木下は顔を真っ赤にして俺にスナップの効いたビンタをかましてきた。


「勘違いするんじゃねえよ!
 あたしはお前らが教室で変な事しようとしたから怒っただけだよ!」


それだけ言って木下は椅子に座りなおした。
し、しかし女に本気ビンタをされるとは・・・かなり痛いし。
木下はむくれた顔をしつづけているがこれ以上何か言うつもりはないらしい。


「お、おい今の木下の反応・・・」

「ま、まさかあれがツンデレという奴なのか!?」

「すげえ、俺生で見るの初めてだよ」



ツンデレだと!!
あの普段ツンツンしていていざという時にデレるというあれか!!
今の木下の反応はツンデレなのか!?
い、言われてみれば確かに俺には多少ツンツンした態度を取っている。
俺が単に怒らせているだけかもしれんが。
だが俺達は別に仲が悪い訳でもない。
普通そんな態度を取る相手とはそのまま喋らなくなっていくだろう。
俺達がそうならないということは!まさしくこれはツンデレ!
デレは!?デレはいつくるんだ!?
興奮してしまった俺はそのまま木下を見るが


「誰がツンデレだ!うるさいぞ男子!」


周りに当たり散らす木下。
・・・・本当にデレるのか?


「ノザンもさっさと座れ!授業中だぞ!」

「は、はい!」


おとなしく席に着くことにする。レイカも俺の隣の席に着く。
ってレイカの席はまだ決まってないんじゃなかったっけ?
元々俺の隣いた男は何故かクラスの端に移動していた。
木下に一括された男達も静かになり教室はシンと静まり返った。



「・・・もういいか?それじゃあこのまま授業始めるぞ」


生徒達が騒いでも一切注意せず静かになるまで待つ教師ってどうよ?
レイカの席についても何にも言わないしやる気あるのかよ。


「随分と嬉しそうだったわねノザン」

「え!?」


お、怒ってらっしゃるのかな?
不機嫌そうな顔をしているレイカ。
しかし・・・・この、美人さんが本当にあの、麗華なのか?
確かに声は俺がずっと聞いていた麗華そのままだ。
自分で俺の彼女だって言ってきたし、その事を知っているのは俺と麗華だけだ。
だけどなあ・・・・
華恋火高からって事は当然お嬢様だろうし彼女はこんなにも綺麗だ。
こんな人がネトゲのヴァルキュリアをやってた?いまいち信じられない。
「麗華」は俺と一緒にほぼ毎日ヴァルキュリアをプレイしていたし
それ以前から麗華は高レベルのキャラを持っていた程やり込んでいたゲーマーなのだ。
そんな「麗華」がここにいる南条レイカと同一人物だと言われても。
俺の「華恋火女子のお嬢様」のイメージとあまりにもかけ離れている。
いや、そもそもそれ以前に何故彼女はここにいるんだ?どうやって俺を見つけた?
昨日の今日でどうやって転校してきた?
考えれば考える程今の状況はおかしい。一体何がどうなってるんだ?
ずっとレイカの方を見ていると彼女は表情を戻してそっと俺に伝えた。


「お昼休みの時に二人で昼食を取りましょ。その時に全て説明するわ」

「あ、うん。わかった」


もう頭の中がぐちゃぐちゃになっていた俺には渡りに船だ。
とにかくなんでもいいから説明してほしい。
ほっとした俺を見てレイカはうっすら微笑んだ。
見惚れてしまった俺は先生に注意されるまでレイカから目を離すことが出来なかった。




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唐突に始まる恋の予感 第4話

レイカは休憩時間になる度にクラスメイトに囲まれ一斉に質問されていた。
趣味はなんだとか好きな物はなんだとか好きなタイプの男性はとか
まあよくある質問だ。
ただし質問してるクラスの男達は鼻息も荒く超を三個ぐらい付けていいほど必死だ。
それはもう一緒になって質問しようとしてレイカに近づいた女子達が離れて行くぐらいに。
隣にいた俺はその度に席から追い出されていた。
てっきり俺も何か追及されるかと思っていたが、俺なんかを相手にするより
レイカと少しでも喋りたいのだろう。
最初はみんな朝の出来事についてばかり聞いていたが
レイカに上手くはぐらかされ続けてどうでもよくなったのかもしれない。
今では上記の様にレイカ自身に関する質問ばかりになっている。


「こりゃすげえ人気ぶりだな」


離れた位置で独り言を言った俺にトシと正樹が寄ってきた。


「当然だ。あのレイカ様だぞ。クラスの視線独り占めに決まってる!」

「南条さん。綺麗だもんね」

「うむ。それに教室の外にも、見ろよ」


トシに促されて教室の外を見てみると、まあ他のクラスの男で一杯な訳で。
いや、他のクラス所か他の学年の生徒達もかなり来ているようだ。
幸いクラスの連中がレイカの周りをがっちり囲んでいる為クラスにまでは入ってこないが。


「まあわかるけど・・・トシ、お前レイカ様ってなんだよ」


最初は勢いに任せて言っただけかと思ったがこいつはそのまま言い続けてる。
クラスメイトを普通に様付けして呼ぶのは流石にどうかと思うぞ。


「ふっ、俺はあの人を見た瞬間電撃が走ってしまったよ。この人こそ俺の理想だとな」

「お前彼女いるだろうが」

「それはそれ、これはこれって奴さ。とにかく俺はレイカ様に心を奪われてしまったんだ!」


わかったから興奮するな。とりあえず後でこいつの彼女に報告しておこう。


「でも朝の時、ノザンは南条さんのこと呼び捨てにしてたよね」

「そうだぁ!朝のあれは一体どういうことだ!!」


折角トシが忘れてたのに思い出させないでくれ正樹!
トシが気持ち悪い顔をして詰め寄ってきたじゃないか。


「そもそも!何で転校生のレイカ様といきなりあんな事になってるんだよ!」

「それはなあ・・・まあ、あれだ。ちょっとした知り合いだったんだよ」

「ちょっとした知り合いがいきなりキスしようとする訳ないだろうが!!」


おっしゃる通りで。
だがこいつに馬鹿正直にネトゲで知り合いましたと言うのは嫌だ。


「貴様まさか、レイカ様とすでにあんな事やこんな事ま」


トシが最後まで言い終わる前に崩れ落ちる。背後からの一撃に耐えられなかったようだ。
トシの背後に回っていたのは木下。むすっとした顔で右手には国語辞典が装備されていた。


「でかい声で変な事言うな、馬鹿田中」

「由香里ちゃん、後ろから辞典で叩くのはひどいよ」

「そうだぞ、木下。それに辞典を武器にするツンデレなんて既に世に出て」


俺も最後まで言い終わることが出来なかった。


「誰がツンデレだ馬鹿ノザン!」

「これは仕方ないよノザン」

「いたたた・・・角は止めてくれ。洒落にならん」


頭を触ってみるとうっすらコブが出来ていた。
漫画みたいにプクッと膨らんだりはしてないのがせめてもの救いだ。


「それよりノザン、後でちゃんと説明してもらうからな」


自分の言いたい事だけ言って木下はさっさと自分の席に戻っていった。
木下の災害とも言える暴力を上手い事回避した正樹がさわやかに話しかけてくる。


「大丈夫ノザン?」

「大丈夫な訳ないだろ。見ろよこのタンコブ」

「うわぁ、でも由香里ちゃんにあんなこと言ってそれだけで済んで良かったね」


このコブを見てそれだけとは、正樹も中々言いやがる。
ちなみにこいつが木下のもう一人の幼馴染。
木下は俺と正樹、それからついでにトシ以外の男子とは距離をとっている。


「僕もノザンと南条さんの関係が気になるんだけど」

「正直言って俺もよくわからん。もうちょっと待ってくれ、はっきりしたら言う」

「そっか、でも南条さんのおかげで由香里ちゃんも少しは素直になるかもね」

「どういう意味なんだそれ?っつうかトシが起き上がらないけど大丈夫かこいつ?」













というわけで昼休みになった訳だが。
早速レイカと昼飯を食いに行きたいのだが


「南条さん、私達とお昼一緒に食べましょっ」

「レ、レイカさん。よろしければ僕と一緒に!」

「抜け駆けしてんじゃねえよ!南条さん、ここは俺と二人っきりで・・・」

「レイカ様!俺と、俺とご飯を!!」


こういう感じになるのは正直予想していました。
最後の叫びはトシだな。目が濁っておりとても正気には見えん。
完全にレイカの魅力に溺れてしまっているようだ。

あ、トシの彼女が来た。
お~お~怒ってる怒ってる。さっきの休憩の時にちゃんと報告した甲斐があったようだ。
彼女はトシの耳を掴んでクラスの外へと引っ張っていった。うむ良い事をしたら気分がいい。
しかしこれはどうしたものか。レイカは完全に囲まれており
こんな状況で俺がレイカを誘ったら即、他の男子に絞められる事だろう。


「ノザン!ご飯食べに行くよ!」


俺がその言葉を認識した時にはすでに俺の体は彼女に引っ張られていた。


「き、木下!ちょっと待って・・・」


彼女というか木下だけど。
木下は俺の腕を強引に掴みそのまま教室を出ようとしている。。


「待たない!さあ朝の事をちゃんと説明して貰うよ!」


更に強く俺の腕を掴み体の方に引き寄せる。


・・・・・・悪くないな


俺は無意識の内に全神経を引き寄せられている腕に集中させた。
もっと具体的に言うと引き寄せられた結果、木下の胸と接触してる部分に集中させた。
木下は・・・全く気にしていない様だ。それ所じゃないのだろう。
しかしこの感触はいいものだ。俺という男はこの感触を味わう為に生誕したのかもしれん。
いや、逆に考えてみよう。木下の胸は俺にこの感触を与える為に育った。
これでどうだろうか。本当に逆になってるかどうかは知らん。
そんなどうでもいい事を考えている暇があったら俺はこのあったかくて柔らかくて
ついで良い匂いのする胸を堪能するだけである。
男として当然の選択。俺として当然の選択。人類として当然の選択。

・・・・・・!?

今、歩いた拍子にむにゅっときたぞ。

むにゅった!

おお、木下が歩く度にむにゅっと来るぞ!

もっと・・・もっとむにゅらしてくれ!!!!






嗚呼・・・・・・














「ノザンのご飯はそのパンとコーヒーだけか?」

「ん・・・ちょっと少ないけど」


ストローをさしてコーヒーを飲む。暑い日にはこれだな。
パンは購買でさくっと買ったメロンパン。
コーヒーは無糖じゃないので甘い物同士で食い合わせはよくない。


「木下は・・・弁当か」

「今日は母さん、朝早かったから自分で作ったんだ」

「そうか・・・弁当って夏だと腐るんじゃないの?」


メロンパンをかじる。コーヒーを先に飲んだせいで味がぼやけてる。
隣に座ってる木下は俺のセリフにちょっと嫌そうな顔をした。


「一応腐りにくい物選んでるし」

「ふ~ん・・・・・・」


食堂の外に置いてあるベンチで食ってるが意外と静かなもんだ。
俺と木下以外は食堂内で食ってるみたいだし。


「そのアスパラベーコン一個くれ」

「ん、いいよ」

「お、気前いいな」

「別に・・・そんなにお腹空いてないしね」


木下がアスパラのベーコン巻きを掴んで俺の口に寄せてきたっておいおい


「ちょ、なんであ~んなんだよ」

「ノザンも手掴みで食べたくないだろ。いいからほら、口空けな」


おかずが落ちない様に手を下に添えて俺に持ってくる姿はとてもクルね!
恥ずかしいけどここで引くのは負けた気がするのでぱくっと食べる。

「美味いだろ」

「んぐっ、・・・美味い」

「ふふっ、この由香里ちゃんが作ったんだから当たり前だな」


得意げな顔をするが俺には喜びを隠し切れて無いようにも見えた。


「木下って料理上手かったっけ?前に食わして貰った時は・・・」

「・・・・・・・・・・」


木下が俺から目をそらして頬を膨らました。
目はもう不機嫌ですって言ってる。どう見ても拗ねてます。
こいつがこんな可愛らしい表情するなんて。一体どういう心境の変化だ。
というかこんな顔って子供かぶりっ子ぐらいしかしないだろ。


「なんだよ、そんな顔して」

「・・・ノザン」

「なんだよ木下」

「ほらそれっ!」

「それってどれ?」

「なんであたしはノザンって呼んでるのにお前は木下って呼んでるんだよ!」

「ええ!?」


いきなり何を言い出すんだこいつは。


「なんでって言われても。というかお前こそなんで今更そんな事言うんだよ」


そうだ。俺達のこの呼び方はもう小学生からずっと続いている。
何年も同じ呼び方をしているのに何故今になってと思うのは当然だ。


「そんな事はどうだっていいだろ。その、ノザンもあたしみたいに呼べよ」


木下の顔が赤くなっている。


「お前みたいにって、あだ名でって事か?ゆかっぺとかゆかりんとか?」


「馬鹿!そんな言い方じゃ・・・・・・その・・・」


今度は急にもじもじしだした。
さっきから木下行動がおかしい。こいつは誰だ。
ってか正直こんな木下見てたら俺もたまらなくなってきたんだけど。
表面上は冷静を装っているが俺にも余裕が無くなってきている。


「ああ、もういい!ノザンはこれからあたしの事は名前で呼べ!」

「え!それは・・・言いづらいぞ」


子供の頃ならともかく、この年で苗字から名前に呼び方を変えるってのは抵抗がある。


「なんでだよ?正樹だってあたしの事名前で呼んでるじゃん」

「正樹は昔から名前で呼んでるから・・・その・・・」

「うだうだ言わない!ほら、あたしを名前で呼びなさい!」


はきはきと喋ってる木下だが顔はもうすっかり完熟トマトである。
そんなに恥ずかしそうにされるとこっちも釣られて赤くなってしまう。
というか木下の名前で呼ぶとか、正直今まで考えた事無かった。
なんというか・・・俺が女の子を名前で呼ぶ事があるとするなら
相手はきっと自分の彼女ぐらいなんだろうって考えが俺の中にあるからだ。
・・・あれ?なんか忘れてるような気が・・・
しかし木下を名前で呼ぶのか。
考えた瞬間、木下が彼女になったような想像をしてしまい一気に顔が熱くなってしまった。
お互い顔が真っ赤になってしまいギクシャクとした空気が流れてしまう。


「は、はやく言えよ・・・」

「えっと、その・・・・・・ゆ、由香里」

「・・・・・・・・・っ!!」


木下には多分ぷしゅ~って音と湯気が出てるんだろうな、漫画だと。
言った俺にもきっと湯気が出てると思う。
なんだかすごくむず痒くて、とてもじゃないがジッとしていられない。


「よよ、呼び捨てかよっ」

「じゃ、じゃあなんて呼べばいいんだよ、正樹みたいに、ゆ、由香里ちゃんとかか?」

「う、うぅぅぅ」


くあぁ!なんだこの空気!もう俺は何を口走ってるんだがわからん!
木下は小さく唸るのが精一杯って感じだ。もう目がぐるぐるになってる。
俺も似たようなもんだが。


「あああ、あたしは!その・・・よ、呼び捨てでいいぞ!」

「い、嫌じゃないのか?呼び捨てで呼ばれるとか」

「べべ、別に嫌じゃないよ。ノ、ノザンになら別に」

「え!?」


俺の驚きを聞いて木下はしまったって顔をして固まった。
その、俺になら別にってことは・・・・・・その俺ならいいって事か?
呼び捨てで呼んでも良いって事は、その俺らは高校生な訳で。
高校生の男女が名前で呼び合うってのは・・・俺はあだ名だけど。
ベンチで二人、真っ赤になって見つめあってる姿は周りから見てどうなんだろうか。
気が付けばお互いの顔もすっかり近くなっていた。だが動く事が出来ない。
木下・・・由香里の吐息が俺の顔にかすかに当たる。そのぐらいの距離だ。
後ちょっと近づいたら、恐らく重なり合ってしまうだろう。


沈黙


沈黙


そして


由香里が、動こうとしたその時。

俺は顔を離してしまった。

彼女の顔には驚き、それと落胆が・・・


「ノザン・・・」

「え、えっとその!」

「・・・・・・」

「これからもよろしくな・・・由香里」


そっぽを向いてぶっきらぼうな物言い。
それでも由香里は、本当に嬉しそうに笑ってくれた。


「・・・んっ!」


由香里がすすっと寄ってくる。
呼び方が変わっただけ。
結果だけ言うならそれだけの筈なのに彼女の動作はすごく自然で。
俺も、ごく自然に。寄ってきた彼女の肩を抱き寄せた。





「な~~にをしようとしてるのかしらノザン?」


嘘です抱き寄せませんでした。


「レ、レ、レイカたん・・・」

「そう、レイカよ。・・・あなたの 彼 女 のレイカよ」


背後から俺の肩に手を重ね頭を置いたレイカは静かに語りかける。
俺の体は夏だというのに一瞬にして真冬のような極寒に見舞われていた。
あれだ、一言で言うならあれしかない。



忘れてたあああああ!!



俺はなんでレイカの事を忘れて由香里ときゃっきゃうふふとやっていたんだ!?
自分がもう信用できない!!


「木下さん・・・って言ったわよね?」


レイカの呼びかけに由香里は答えない。
感情の抜け落ちた顔でレイカをじっと見据えている。
先ほどまでの甘い空気は一瞬で消え去り張り詰めた空気が肌に刺さる。


「・・・・・・何?」


由香里の声とほぼ、同時か。レイカが俺の頭を掴み自分の方に向ける。
次の瞬間、由香里の表情が一変した。


「んんっ!!」


俺は思わず喉を鳴らした。声が出せなかったのだ。


「ん・・・・・・ちゅっ・・・」


レイカはなんと俺にキスをしてきたのだ。


「あぁ!!」


由香里が叫んだがレイカは完全に無視をした。
俺は・・・全く抵抗する事が出来なかった。
いや、抵抗する気が起きなくなってしまったというのが正解か。
レイカが真っ赤になって目を瞑りキスをする姿に心を奪われてしまったからだ。
最後にちゅぱっと言う音が鳴りレイカの唇が俺から離れていった。
由香里は口をぱくぱくとさせるだけで言葉が出てこない。


「わかって頂けたかしら。ノザンの彼女である私の目を逃れて一緒に食事を取るなんて
 泥棒猫のような真似は今後しないでいただきたいですわ」


顔を深紅に染めながらも勝ち誇った顔をするレイカ。


「レレレ、レイカ・・・」

「ふふ・・・私達のファーストキスよ。素敵だったわ」


うっとりした顔をする。
俺はむしろ凄過ぎて現実味がない。


「ノザン・・・」

「レ、レイカ・・・・・・」


見つめあう。そしてそのままもう一度口付けを・・・


「ノザンの馬鹿野郎!!!!」


由香里が俺にビンタをして走り去ってしまった。
これまでに食らった事の無いとてつもない威力のビンタだった。


「こ、これが・・・ツンデレという奴なのか・・・」

「誰だって怒ると思うわよ」


辞書が飛んできて俺の頭に直撃した。


「ツンデレ言うな馬鹿!!」


木下の声が遠くから聞こえてきた。


「いてえええええ!!」

「あら、あの子まるでギャルゲーのヒロインみたいね」


レイカからとてもお嬢様が口にしないような単語が聞こえてきた。


「ギャ、ギャルゲーってレイカ」

「そんなことはどうでもいいじゃない。それより」


レイカが俺の首根っこを掴んだ。


「ぐぇっ」

「さぁ、さっきの木下さんの事しっかり聞かせて貰うわよ」

「ご、誤解だああぁ!」

「どこからどう見ても真実だったでしょうが」


はい、すみません。言って見たかっただけです。
引きずられながらではあるがそれはさておき。
俺はようやくレイカと2人で話す機会を得る事が出来たのだ。






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